ASKA 10 DAYS SPECIAL
グッバイ&サンキュー東京厚生年金会館 -ここにあなたの足跡を-
ライブレポート

文:長谷川誠
写真:西澤祐介


 いい鳴りだなあ。ライブが始まった瞬間に、まず思ったのはそんなことだった。『ASKA 10 DAYS SPECIAL グッバイ&サンキュー 東京厚生年金会館 ―ここにあなたの足跡を―』と題されたコンサートの4日目、2月16日のステージ。ASKAの表情豊かな歌声とバンドの人間味あふれる演奏と観客のハンド・クラップが混じり合って、温かな空気が会場内に充満していく。3月いっぱいで東京厚生年金会館が閉館になることを受けて、この10回公演のライブが企画されたのだが、ホールも一緒になって、この音楽空間を楽しんでいるような気がした。

 オープニング・ナンバーは『L&R』だった。“オレ”と“オマエ”とが別々の道へと踏み出していく瞬間の思いが描かれているのだが、このシチュエーションで歌われることによって、東京厚生年金会館への“グッバイ&サンキュー”の思いが込められた歌のようにも響いてきた。セルフカバーアルバム『12』収録の『風のライオン』ではASKAの伸びやかな歌声に聴き惚れた。会場内にまさに草原が出現したかのようだった。バンドの演奏も空間的な広がりがあって、実に気持ちいい。バンドメンバーとASKAとの息もぴったり合っている。


 ステージの後方には、1990年から2010年までの年号が書かれた扉のオブジェが吊されていた。かつてCHAGE and ASKAが10公演のコンサートをこの場所で行なったのが1989年のことだった。それから現在までの時間をここで演奏された歌たちが自在に繋げているといった印象も受けた。
「前に10 DAYSをやったときに、背中を押してくれるような感覚がありました」とのMCもあった。この日のステージも過去を振り返るのではなくて、先へと進んでいくためのものだったのではないだろうか。演奏されたすべての楽曲に、新たな息吹きが吹き込まれていると感じた。どの曲からも懐かしさよりもみずみずしさが伝わってきたのだ。カラフルかつポップな空気が新鮮だった『LOVE SONG』は、普遍的な大きな愛の歌へと進化した。今の彼だからこその大人のロマンティシズムと哀愁とが漂う『Girl』、バンドのゆったりとしたグルーヴに乗っての深みと広がりのある歌声が素晴らしかった『No Way』、思いがたっぷり詰まった歌声が染みてきた『ロケットの樹の下で』など、どの歌もさらに“成長”していると感じた。つまり彼と一緒に歌も歩んでいるということなのだろう。『同じ時代を』の“どうしたって 過ぎて行く 時の中さ”というフレーズは観客だけでなく、この東京厚生年金会館に向かって歌われているかのようでもあった。ここでの彼の歌声も圧巻。


 ソロ曲はもちろんのこと、黒田有紀への提供曲『cry』、さらにはCHAGE and ASKAのナンバーなど、枠のない選曲も特徴的だった。MCでも語っていたが、『心に花の咲く方へ』を歌っているとおりに、歌いたいと思った曲を素直に歌っているということなのだろう。つまり彼は音楽に対して、そして自分の気持ちに対して、正直に向き合っているのだろう。だからこそ歌がより深く入ってくるのだろう。本編のラストの2曲『君が愛を語れ』と『UNI-VERSE』も歌がぐいぐい染みこんできた。最後に制作途中の新曲を“ラララ”で披露する場面もあった。終演後の場内アナウンスは、なんとASKAが担当し、その模様がスクリーンに映し出された。「どなた様も思い出をお忘れなきよう」という放送に場内がどよめいた。いい思い出は先へと進んでいく糧となっていく。彼はこの東京厚生年金会館でまたひとつ、新しい扉を開けたところだろう。ここで刻まれた足跡の先にはまっさらな大地が広がっている。